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2016-08

首相 まるで「裸の王様」 消費税増税再延期 2016/6/18

粛々と「裸の王様」のパレードが続いている。誰の目にも「王様」が裸であることは見えており、また観客の一部がはっきりと声に出して指摘しているというのに、多くの人と王様自身はそのことに気付かないふりをしている。なぜか。アンデルセンの童話では、王様を訪れた仕立屋の詐術のせいであった。「この立派な服はバカの目には見えない」と言って、王様に服を渡した(ふりをした)ため、事実を口にすれば、「バカ」と罵られる恐れを多くの人と王様が持ってしまったからである。

消費税増税の再延期はないと明言しておきながら、その再延期を知らせる際に安倍晋三首相の言った言葉は「これまでのお約束とは異なる、新しい判断だ」であった。ひどく勇壮な調子だったが、その言い方は、社会の根幹的なルールを踏みにじっている。「約束は守らなければならないし、どうしても守れなかった場合、その事情と責任の所在を誠実に語るべし」というルールだ。期日までに借金を返せなかった人が、安倍首相が言ったような言い方ができるような社会は想像しにくい。

安倍首相が約束を反故にするのは、いつものことだ。深刻なのはむしろ、今回の発言に対する市民からの非難がさほどに激しくないことだ。ここで対照すべきは、昨今の芸能人の不倫騒動や都知事の政治資金の「不適切」な使用を巡るバッシングの激しさだ。こちらでは、バッシングそのものが祭りの様相を呈している。首相なる者を、ルールは決めるが、どのようなルールの制約も受けない王か主君のごときものとして受け入れる社会ができつつあるのだろうか。

多くの人がその異様さに気付かないふりをしている。童話の「仕立屋」の詐術にかかったかのように。なぜか。不足している社会保障費、膨らみ続ける財政赤字の問題を解決するために、消費税増税以外に方法があることを知っているからか。あるいは、増税によって自らの生活が脅かされることを恐れているからか。いずれにせよ、増税延期に賛成しているが故に、つまり、結果的に首相と考えが一致しているが故に、その言い方がいかに異様なものであれ目をつむるということであれば、このパレードは危うい。それは社会が現に向かっている方向を、惰性や当面の利害関心を超えて批判的に見つめ、修正するための必須の道具を放棄したことを意味するからだ。

異様さを指摘する声を受け付けないまま、パレードは粛々と続いている。それはどこか葬式に似ている。実際、現政権が数年をかけて進めてきたのは、葬式ではないか。市民社会、あるいは言葉の葬式。もちろんそれらは死んではならず、現に息をしてもいる。とすれば、この葬式は次第の進行が死をもたらすプロセスであるような葬式である。言葉をよすがに互いにつながり、未来と過去の他者への責任を考える市民に死をもたらす葬式。それが今の社会の変容の核だとすれば、善き行いといえるのはむしろ騒ぐことだ。裸の王様のパレードで、きっと向う見ずだったろう子どもがしたように。


*引用元:河北新報 2016年6月18日(土)

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